――ひずみ設計という視点が試験依存から脱却させる
■問題提起:終わりの見えない評価試験というボトルネック
電子機器の信頼性評価において、温度サイクル試験は長年「標準手法」として用いられてきました。しかし現場では、多くのエンジニアが同じ悩みを抱えています。
新しい基板形状になるたびに試験をやり直す必要がある。
試験期間が数ヶ月に及び、開発スケジュールを圧迫する。
設計変更のたびに評価を繰り返すため、コストが膨らみ続ける。
こうした問題の本質は、評価方法が劣化の原因ではなく「結果」を見ている点にあります。温度サイクル試験は確かに実態に近い評価手法ですが、それだけでは劣化メカニズムを設計に活かすことはできません。
■メカニズムの深掘り:破壊を支配するのは温度ではなく“ひずみ”
はんだ接合部の疲労破壊を支配している直接要因は、温度そのものではありません。真の支配因子は、部材間の熱膨張差によって生じる「ひずみ」です。
基板、部品、はんだはそれぞれ異なる線膨張係数を持ちます。温度変化により変形量が異なるため、接合部には繰り返しのせん断ひずみが蓄積されます。この塑性ひずみの繰り返しが、微小亀裂の発生と進展を引き起こし、最終的な破断に至ります。
この現象はコフィン・マンソン則として知られ、疲労寿命はひずみ振幅のべき乗に比例するという物理法則に従います。重要なのは、材料が同一であれば、試験条件や実装形状が異なっても、ひずみを共通尺度として整理すればデータは一本の関係式に統合できるという点です。
■解決の視点:ひずみを中心に据えた設計アプローチ
本質的な寿命設計では、実機試験を繰り返すことが目的ではありません。重要なのは、接合部に発生するひずみ量を定量化し、材料固有の疲労特性と結び付けることです。
具体的には、有限要素解析などを用いて実装状態のひずみ分布を求め、その値を材料のSNデータやコフィン・マンソンパラメーターに適用します。これにより、基板サイズや部品配置が変わった場合でも、設計段階で寿命を予測できるようになります。
このアプローチは、評価の主軸を「試験」から「解析」に移し、設計段階での信頼性確保を可能にします。
■設計者が押さえるべき本質
温度サイクル試験を繰り返す手法は、現象の結果を追いかけているに過ぎません。真に重要なのは、破壊を引き起こす物理量であるひずみを特定し、それを設計指標として扱うことです。
ただし実務においては、接合部の局所ひずみを正確に評価することは容易ではありません。材料の非線形特性、温度依存性、実装条件のばらつきなどを考慮した解析には高度な専門知識が求められます。また、解析結果を信頼性設計へ落とし込むためには、実測データとの整合確認も不可欠となります。
はんだ疲労設計の本質は、試験の繰り返しではなく、「ひずみという共通言語で劣化現象を統合し、設計に反映できるかどうか」にあります。この視点を持つことで、開発期間の短縮と信頼性向上を同時に実現することが可能になります。
本記事で触れた技術解説については、TH企画主催の技術セミナーで、具体的事例を交えて体系的に解説しています。
【本記事について】
本記事は、TH企画セミナーセンターが主催する実装技術分野のセミナーにおける
講義内容・質疑応答・実務事例をもとに、製造業向け技術情報として編集・再構成したものです。
執筆・編集:TH企画 技術コンテンツ制作チーム



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