その「活性化エネルギー」は本物か?

エレクトロニクス

――アレニウス式を“盲信”するエンジニアが陥る最大の罠


■問題提起:なぜ、理論通りに製品は壊れないのか

「85℃・85%の加速試験で寿命を算出したはずなのに、市場では想定よりも早く故障が発生する。」

このような経験は、多くの信頼性エンジニアにとって決して珍しいものではありません。現場では、寿命予測の標準手法としてアレニウスの法則が広く用いられています。しかし、その計算に使用する活性化エネルギー(Ea)の値を、過去の文献や一般的な代表値から“そのまま引用”していないでしょうか。

実はこの「とりあえずの数値設定」こそが、寿命予測の精度を根底から崩壊させる最大要因です。理論そのものが誤っているのではありません。問題は、活性化エネルギーを固定された定数として扱ってしまう設計姿勢にあります。


■メカニズムの深掘り:活性化エネルギーは“固有値”である

アレニウス式は本来、化学反応速度論から導かれたモデルです。材料の劣化は分子レベルでは反応現象であり、その進行は「エネルギー障壁」を越える確率によって決まります。この障壁の高さが活性化エネルギーです。

重要なのは、この値が材料ごと、さらには故障モードごとに大きく異なるという点です。半導体や高分子材料の熱劣化では一般に0.5〜0.8eV程度とされますが、これはあくまで代表的な目安に過ぎません。拡散劣化、酸化反応、界面反応など支配メカニズムが変われば、活性化エネルギーは大きく変動します。

つまり、文献値を流用した計算は、物理現象を再現しているのではなく、単に理論式の形をなぞった“数値操作”に留まってしまうのです。


■解決の視点:実測データからモデルを構築する

本質的な寿命設計では、活性化エネルギーを最初から与えることはありません。むしろ逆に、複数温度条件で得られた寿命データからモデルを構築します。

具体的には、異なる温度条件で取得した寿命点を、絶対温度の逆数に対してプロットし、その直線性を確認します。直線関係が成立した場合にのみ、その傾きから活性化エネルギーが導き出されます。

例えばLEDの耐熱寿命評価では、異なるジャンクション温度下で光束維持率の劣化曲線を取得し、一定低下率を寿命点として直線化します。このプロセスを経て初めて、その製品固有の“生きた”加速モデルが成立します。


■設計者が押さえるべき本質

活性化エネルギーを既知の定数として扱う設計は、物理モデルの本質を見失う原因となります。信頼性設計において重要なのは、計算式の適用そのものではなく、劣化メカニズムを実測データに基づいてモデル化することです。

現実には、このモデル構築には長期試験データの取得、故障モードの特定、統計的解析といった高度な知見が必要となります。単純な計算式の適用だけでは、再現性のある寿命予測は得られません。

アレニウス式の真の価値は、公式の存在ではなく、「劣化現象をどこまで物理的に理解しているか」を設計者に問いかける点にあるのです。

本記事で触れた技術解説については、TH企画主催の技術セミナーで、具体的事例を交えて体系的に解説しています。

【本記事について】

本記事は、TH企画セミナーセンターが主催する

実装技術分野のセミナーにおいて実施されたセミナー内容、ならびに紹介された事例をもとに、

TH企画が製造業向け技術情報として編集・再構成したものです。

執筆・編集:TH企画 技術コンテンツ制作チーム

コメント

タイトルとURLをコピーしました