なぜ「試験省略(スキップテスト)」が品質崩壊の引き金になるのか ――導入を許される企業と、許されない企業の決定的差

トラブル防止・対策

問題提起:共感と痛み 「コスト削減とリードタイム短縮のため、今回は試験を省略します」 この一言が、数年後の大規模な市場回収につながる――。そんな事例は、エンジニアリングの現場では決して珍しくありません。試験省略は本来、合理的な品質管理手法の一つです。しかし、多くの現場では「過去数年間、問題がなかったから今回も大丈夫」という、論理的根拠のない「経験則」だけで導入されてしまいます。この思考は極めて危険です。品質保証とは「過去の結果」の蓄積ではなく、「現在の統制状態」の証明によってのみ成立するからです。

メカニズムの深掘り:なぜ起きるのか 試験省略の失敗は、過去の「安定」を将来の「安全」と同一視する思考停止から始まります。

例えば、サプライヤーの住所確認という初歩的なプロセスを考えてみましょう(ベンダー監査②)。多くの企業は、契約書にある「本社の所在地」を確認して満足します。しかし、実際にリスクを負うべきは「製造所の所在地」です。製造拠点が海外の別の場所に移転していたり、一部の工程を未承認のサブベンダーへ再委託していたりすることに気づかず試験を省略すれば、それは「全く異なるプロセスで作られた未知の原料」を無検査で自社ラインに投入することと同義です。

また、1次情報(ベンダー監査③)が指摘するように、同一原料でも「納入日違いのロット」を厳格に区別していない現場では、トレーサビリティが崩壊しています。システム上は管理されていても、倉庫の実ロケーションで未試験品と合格品が混在する「識別表示の不備」があれば、試験省略以前の問題です。 正式記録とは別にメモ書きが横行しているような、データの信頼性(DI)が担保されていないサプライヤーに対して試験省略を適用することは、品質保証の旗を降ろすのと同義です。

解決の視点:設計思想 試験省略を「固定の既得権益」ではなく、**「状態に応じて変動する動的な管理パラメータ」**と捉え直してください。 真に試験省略が許されるのは、以下の「動的条件」が満たされている間だけです。

  1. 監査による統制証明: 書類だけでなく、現場ツアーで「メモ書きの不在」や「物理的隔離」が確認されていること。
  2. 製造所単位のリスク評価: 本社ではなく「製造現場」の変更管理(Change Control)が自社に即時通知される体制があること。
  3. 収支(イールド)の厳格管理: ラベル一枚の収支まで100%一致させるような、サプライヤー側の「管理の執着心」が確認できていること。

運用上の指針 試験省略は効率化の手段ではなく、高度な管理状態がもたらした「結果」としての報酬です。根拠なきスキップは合理化ではなく、単なるリスクの移転に過ぎません。品質保証の本質は「試験を減らすこと」そのものではなく、「試験を減らしても壊れない仕組み」を論理的に設計することにあります。

本記事で触れた技術解説については、TH企画主催の技術セミナーで、具体的事例を交えて体系的に解説しています。

【本記事について】
本記事は、TH企画セミナーセンターが主催する実装技術分野のセミナーにおける
講義内容・質疑応答・実務事例をもとに、製造業向け技術情報として編集・再構成したものです。

執筆・編集:TH企画 技術コンテンツ制作チーム

コメント

タイトルとURLをコピーしました