複数部品から構成される構造物をCAEで解析する際、特に意識しなければ、多くの解析ソフトは部品間の関係を「固着(Bonded)」として扱います。
固着とは、接合面が一切すべらず、離れず、常に完全に一体で力を伝えるという、極めて強い仮定です。この設定はマトリックス計算を安定させ、収束性も良いため、納期に追われる現場では「まずはこれで」と多用されがちです。しかし、問題はその便利さが、現実の構造挙動を根底から歪め、取り返しのつかない設計手戻りを誘発する点にあります。
現実の構造物は「固着」などしていない
実際の機械構造において、部品同士が完全に固着しているケースは、溶接や強固な接着を除けばほとんど存在しません。ボルト締結、嵌合、フレーム同士の接触――これらはすべて、実機では荷重に応じてダイナミックにその姿を変えます。
- 押し合えば、面圧が発生し、剛性が生まれる。
- 引かれれば、接触が解放され、隙間(ギャップ)が生じる。
- せん断荷重が増えれば、摩擦条件に応じて微小な、あるいはマクロな「すべり」が発生する。
これが物理的に正しい挙動です。対して固着モデルは、これらすべての自由度を解析の入り口で封じ込めてしまいます。この瞬間に、CAEモデルは現実の製品とは似て非なる「別物」へと変質しているのです。
変位が変わる=構造剛性が「偽り」であるということ
講義で示されたアルミフレーム構造の比較事例は、この違いを残酷なまでに浮き彫りにしました。
- 固着モデル:部材同士が一体化した「高剛性な一塊」として振る舞い、目標変位内に収まる(解析OK)。
- 摩擦あり接触モデル:荷重によって接合部がわずかに浮き、すべりが発生することで、構造全体の剛性が低下。変位が大きく増大し、要求仕様を逸脱する(設計NG)。
ここで重要なのは、「解析結果が少しズレた」というレベルの話ではないということです。モデル化した時点で、荷重経路(ロードパス)そのものが変わってしまっているという事実です。
固着条件では、本来なら力が伝わらないはずの経路まで使って無理やり力を伝達させ、構造を不自然に硬く見せかけます。一方、接触を考慮した解析では、接触状態の変化に応じてロードパスが切り替わり、構造は本来の“柔らかさ”を露呈します。どちらが現実に即した評価であるかは、議論の余地がありません。
設計手戻りは、常に「解析のあと」に牙を向く
この認識の差が、開発プロジェクトの運命を分けます。
【パターンA:固着モデルで楽観視】 解析で「OK」が出たため、そのまま出図・試作へ。しかし、実機テストで想定外の大変位や干渉、異音が発生。原因究明のために再度非線形解析を行い、ようやく「接触の不備」が判明。そこから大規模な形状変更と再設計を余儀なくされる。
【パターンB:接触解析で現実を直視】 解析段階で「NG」が顕在化。接合部の剛性不足を認め、設計段階で補強や締結位置の見直しを実施。解析上で対策の妥当性を確認してから試作へ進むため、実機でのトラブルを最小限に抑え込める。
どちらがトータルコストを抑えられるかは明白です。「解析は通ったのに、なぜ実機で問題が出るのか」という問いに設計者が追われる状況は、解析技術の不足ではなく、モデリングの「前提」を選択する時点でのミスによって引き起こされているのです。
「計算が重い」は、設計を放棄する理由にならない
「接触要素を入れると計算負荷が高すぎる」「収束しなくて時間がかかる」。 これらは実務上の事実であり、解析者の悩みであることは間違いありません。しかし、それを理由に接触を省略し、非現実的な固着モデルで設計判断を下すことは、**「計算コストを節約するために、現実を無視する」**という背信行為に等しいと言わざるを得ません。
接触解析を使わなかったことで発生する設計手戻り、再試作、評価のやり直しにかかる膨大な時間と労力を考えれば、計算機を数時間、数日回すコストなど微々たるものです。
結論:接触解析は「好み」ではなく「力学的必然」である
接触要素を組み込むかどうかは、解析者の流儀やスキルの問題ではありません。構造物が「離れるのか」「すべるのか」「押し合うのか」という、力学的に避けられない挙動を扱っているかどうかの問題です。
固着モデルは、解析作業を簡単にしてくれますが、現実の製品を簡単にしてくれるわけではありません。設計段階で問題を顕在化させて摘み取るのか、それとも試作後に致命的な不具合として噴き出させるのか。その分かれ目は、解析の入り口にある「接触条件」という選択肢に集約されています。
これは経験論ではありません。構造力学に基づく、逃れようのない必然的な帰結なのです。
本記事で触れた技術解説については、TH企画主催の技術セミナーで、具体的事例を交えて体系的に解説しています。
【本記事について】
本記事は、TH企画セミナーセンターが主催する
実装技術分野のセミナーにおいて実施されたセミナー内容、ならびに紹介された事例をもとに、
TH企画が製造業向け技術情報として編集・再構成したものです。
執筆・編集:TH企画 技術コンテンツ制作チーム




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