設計者が本当に恐れるべきなのは、「一発破壊」と「金属疲労」、どちらでしょうか。
一発破壊(静的破壊)は、確かに衝撃的です。しかし、それは多くの場合、試運転時に発生し、自社工場内で発見されます。図面修正と再製作という実務は発生しますが、被害は社内でコントロール可能な範囲に留まります。
一方、金属疲労は性質がまったく異なります。出荷後、数ヶ月から数年単位で、顧客設備の稼働中に静かに、しかし確実に進行します。そして破断が顕在化した瞬間、問題は「部品の不具合」から「企業の信頼問題」へと変貌します。再現試験の工数、破壊原因の説明責任、そして失墜した信頼の回復にかかるコストは、部品代の数百倍、数千倍に膨れ上がるのです。
「解析を回した」という免罪符の危うさ
こうした背景から、近年は疲労評価に非線形解析を適用するケースが増えています。しかし、ここでエンジニアが陥りやすい致命的な落とし穴があります。
「高度な非線形解析を一度実行したから、疲労も正しく評価できているはずだ」
この認識こそが、次なるリコールへの入り口かもしれません。非線形解析はあくまで「接触」「塑性」「大変形」といった複雑な物理挙動をシミュレートするための手段であり、解析ソフト自体が疲労破壊の可否を自動的に「判定」してくれるわけではないからです。
溶接部に潜む「複数の破壊モード」とミーゼスの限界
特に注意が必要なのが溶接構造です。溶接部には、単一の破壊形態は存在しません。「ルート破壊」なのか、あるいは「止端部(トウ)破壊」なのか。どちらが支配的になるかは、形状、荷重状態、拘束条件によって刻々と変わります。
にもかかわらず、多くの現場では溶接部の評価を「ミーゼス応力の最大値」で行い、そこに一律の安全率を掛けて良否を判断しています。しかし、講義で示された通り、ミーゼス応力はせん断歪みエネルギーを換算したものであり、材料が「降伏」するかどうかを見るための指標です。クラックの進展、つまり「引き裂かれる」現象である疲労破壊を評価するには、主応力の方向や変動幅を見なければ、真のリスクは見えてきません。
メッシュを細かくしても、答えは出ない
溶接部の疲労評価でよく見られるのが、「不安だからメッシュをさらに細かくして精度を上げよう」という対応です。しかし、これは徒労に終わる可能性が高いと言わざるを得ません。
溶接止端やルート部には「応力特異点」が存在します。要素分割を細かくすればするほど、応力値は収束することなく上昇し続けます。この「数学的な無限大」を前にして、「どの応力値を使って判定すべきか」を議論しても、論理的な設計判断には至りません。
解決の視点:解析ではなく「評価設計」に注力せよ
ここで求められるのは、解析条件をいじることではなく、**「評価の設計」**です。講義資料で示された、実務的なステップを思い出してください。
- 破壊モードの特定:どこから、どの方向に亀裂が入るのかを予見する。
- 適切な指標の選択:ホットスポット応力や公称応力をベースにするのか、あるいは日本機械学会の便覧にあるような応力集中係数($K_t$)や切り欠き係数($K_f$)を用いるのか。
- 疲労限度との照合:部材の疲労限度を切り欠き係数で割り、算出された公称応力がその範囲内に収まっているかを論理的に照合する。
解析ソフトが吐き出すコンター図を眺める時間を減らし、その数値を「設計判断に耐える指標」に変換するアルゴリズムを構築すること。これこそが、設計段階で疲労破壊を食い止める唯一の道です。
結論:疲労は“設計段階の判断”でしか防げない
金属疲労は、製品が壊れた瞬間に始まるのではありません。設計段階の評価基準の甘さ、判断ミスによって、既にそのカウントダウンは始まっています。
非線形解析を使ったか、高機能なソフトを導入したか。それ自体は本質的な差別化にはなりません。破壊メカニズムを想定し、独自の評価軸を設計できているか。その「設計思想」の差が、社内で終わる小さなトラブルと、顧客先で噴き出す致命的な問題を分けるのです。
あなたの解析は、単なる「塗り絵」ですか? それとも「品質の保証書」ですか? 今一度、自社の評価基準を見直す時が来ています。
本記事で触れた技術解説については、TH企画主催の技術セミナーで、具体的事例を交えて体系的に解説しています。
【本記事について】
本記事は、TH企画セミナーセンターが主催する実装技術分野のセミナーにおける
講義内容・質疑応答・実務事例をもとに、製造業向け技術情報として編集・再構成したものです。
執筆・編集:TH企画 技術コンテンツ制作チーム




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