接触要素を使わないCAEが、疲労破壊を見誤る理由 ―「もっともらしい解析」が現象を裏切る瞬間

トラブル防止・対策

アルミフレームの接合部に発生した疲労破断。CAE上では確かに応力集中が確認できている。それにもかかわらず、実機で進展した亀裂の方向が、解析結果のコンター図とまったく一致しない――。このような経験をしたエンジニアは少なくありません。

解析と実機の乖離に直面したとき、多くの現場では「メッシュを細かくする」「材料定数をより詳細に入力する」「最新の解析ソフトを導入する」といった対処が取られます。しかし、講義で繰り返し指摘されている通り、この種のズレが生じたとき、最初に疑うべきは数値の精度ではなく、モデル化の前提条件、特に「接触条件」の扱いです。

「固着」という名の思考停止が招く罠

CAEモデルを作成する際、部品同士の接合を「固着(Bonded)」として定義することは一般的です。マトリックス計算が安定し、収束性も良いため、初期検討の近似手段としては極めて有効です。

しかし、この「固着」という条件は、物理的には「部品間が一切滑らず、離れず、常に同一の剛性で力を伝達し続ける」という、極めて強固で特殊な仮定を意味します。一方、現実の接合部を想像してください。ボルト締結であれ嵌合であれ、荷重が繰り返し作用する環境下では、微小な「すべり」や、面同士の「接触と剥離」が常に発生しています。

実機の接合部では、荷重の大きさに応じて力が伝わる経路(ロードパス)が刻々と変化しています。これを「固着」で計算するということは、その動的な剛性変化をすべて無視し、構造を一体の塊として扱っていることに他なりません。

疲労破壊は「静止画の応力分布」では決まらない

なぜ接触を無視すると亀裂の方向がズレるのか。その理由は、疲労破壊の本質が「応力履歴」にあるからです。 疲労は、一瞬の最大応力値だけで決まる現象ではありません。問題になるのは、以下のプロセスです。

  1. 荷重変動による摩擦エネルギーの散逸
  2. 微小なすべりによる局所的な塑性変形の蓄積
  3. 剛性低下に伴う応力の再配分

接触を固着として理想化したモデルでは、これらの現象が一切表現されません。本来なら「すべり」によって逃げるはずの力が特定の部位にロックされ、現実とは異なる応力勾配が形成されます。その結果、解析上は「もっともらしい応力集中」が得られていても、実機が辿る破壊のシナリオ(亀裂の進展方向)とは決定的に食い違ってしまうのです。

「合わない解析」を強引に正解にしない

ここで重要なのは、解析結果が実機と合わないこと自体を嘆くことではありません。真の問題は、「なぜ合わないのか」を物理的に説明できないまま、その解析結果を信じて設計判断を下してしまうことにあります。

接触を簡略化したモデルは、疲労評価に必要な物理現象を、そもそも計算の土俵に載せていない可能性があります。講義資料でも触れられた「エネルギー最小原理」の視点に立てば、接触状態の変化によって系のエネルギー分布は劇的に変わります。その根本的な変化を無視したまま、「どこから壊れるか」「寿命はどれくらいか」という答えを引き出そうとすること自体、解析に対する無理な要求なのです。

結論:接触要素なしに疲労は語れない

断言します。接触要素を正しく使い、剛性の変化を追えないCAE解析は、疲労破壊の評価には使えません。これは解析手法の好みの問題ではなく、扱っている「物理現象の範囲」の問題です。

  • 接触によって接合部の剛性がどう変わるのか。
  • 荷重がどの経路で再配分され、どこにエネルギーが蓄積されるのか。
  • 応力履歴がどのように形成されるのか。

これらを考慮に含めて初めて、CAEは「もっともらしい絵」を脱し、設計判断を支える「論理的な根拠」へと引き上げられます。「解析は合っているはずだ」と盲信したくなる時こそ、モデル化の入り口にある接触条件を疑う。その真摯な姿勢が、エンジニアとしての信頼を形作るのです。

本記事で触れた技術解説については、TH企画主催の技術セミナーで、具体的事例を交えて体系的に解説しています。

【本記事について】
本記事は、TH企画セミナーセンターが主催する実装技術分野のセミナーにおける
講義内容・質疑応答・実務事例をもとに、製造業向け技術情報として編集・再構成したものです。

執筆・編集:TH企画 技術コンテンツ制作チーム

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