加速試験の嘘と真実 ――理論式に数字を当てはめるだけでは寿命は読めない

技術解説

■問題提起:なぜ“計算上の寿命”は現実とズレるのか

信頼性評価の現場では、次のような言葉をよく耳にします。 「アレーニウス式で換算したから、この試験時間で十分だ」「加速係数を使えば市場寿命は予測できる」

しかし実際には、計算上の寿命と市場の実態が大きく乖離するケースが後を絶ちません。試験では十分な寿命が確認されているにもかかわらず、市場では早期故障が発生する――この矛盾はなぜ生まれるのでしょうか。答えは明確です。数式だけでは寿命は決して予測できないからです。

■メカニズムの深掘り:数式は“現象”ではなく“表現”に過ぎない

寿命予測式には、アレーニウス式、アイリング式、Larson-Miller則など、様々なものがあります。これらは一見異なる理論に見えますが、本質的にはすべて同じ構造を持っており、寿命とストレスの関係を「べき乗関数」として近似した結果に過ぎません。

ここで最も重要になるのが、式の傾きを決めるパラメータ(活性化エネルギーなど)です。この数値は、故障メカニズムが同一である場合にのみ有効です。もし試験環境のストレスが強すぎて、市場とは異なる破壊モード(例:材料の溶融や相転移)を誘発していれば、どれほど精密な数式を用いても、その寿命予測は根本から崩壊します。

■加速試験が成立する条件:唯一の絶対原則

加速試験が「加速」として成立するための、唯一にして絶対の原則があります。 「市場と試験で故障モードが同一であること」

この条件が満たされない場合、その試験は加速試験ではなく、単なる「破壊試験」です。加速試験の本質は「早く壊すこと」ではなく、**「市場と同じ壊れ方を、制御された環境下で速く再現すること」**にあります。1次情報の解析においても、異常値を除外する「調整平均値法」のような手法が有効なのは、あくまでベースとなる物理現象が正しく捉えられていることが前提となります。

■解決の視点:固有技術と管理技術の“両輪”

信頼性技術を支えるのは、以下の二つの領域です。

  1. 固有技術(物理の目):材料科学、劣化物理、故障解析。現象そのものを理解し、「どこが、なぜ壊れたのか」を科学的に解明する力。
  2. 管理技術(統計の目):ワイブル解析、累積ハザード解析。統計的手法を用いて、寿命分布やばらつきを整理する力。

多くの組織では後者(統計)に偏る傾向がありますが、統計はあくまで現象を整理する手段であり、不具合の真因を解決するものではありません。固有技術による裏付けがない統計解析は、単なる「数字の操作」に陥るリスクを孕んでいます。

■設計思想の転換:数字ではなく“壊れ方”を支配せよ

信頼性予測の出発点は、数式ではなく現場の「観察」にあります。

  • 故障部位の特定と劣化プロセスの可視化
  • 市場故障モードと試験再現モードの一致確認
  • 異常値の背景にある物理的要因の排除

設計者が真に目指すべきは、寿命を「計算する」ことではありません。寿命を支配する因果関係を理解し、壊れ方を設計することです。

■技術的パースペクティブ

統計だけで寿命は予測できません。数式は未来を保証する魔法ではないのです。 壊れ方の物理(固有技術)を理解した者だけが、寿命を語る資格を持ちます。

加速試験の成否を分けるのは、計算の精緻さではなく、劣化のメカニズムに対する洞察の深さである。この本質に立ち返ることこそが、市場トラブルをゼロにする唯一の道です。

本記事で触れた技術解説については、TH企画主催の技術セミナーで、具体的事例を交えて体系的に解説しています。

【本記事について】
本記事は、TH企画セミナーセンターが主催する実装技術分野のセミナーにおける
講義内容・質疑応答・実務事例をもとに、製造業向け技術情報として編集・再構成したものです。

執筆・編集:TH企画 技術コンテンツ制作チーム

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