受講概要
受講形式 会場・WEB 受講対象 医薬品原薬、中間体、化学品の研究開発、製造部門の担当者、指導者、責任者 QC、QA部門の担当者、責任者 予備知識 有機化学、GMP(例えばICHQ7)、医薬品原薬の開発と臨床試験、 プロセスケミストリーなどに関する知識があればより理解しやすいと思います。 習得知識 1)医薬品開発の進め方 2)スケールアップ実験の進め方、実験結果の評価方法 3)原薬のプロセス開発の進め方、様々な事例 4)原薬、中間体のスケールアップ製造の事例、失敗例 5)プロセスバリーデーションの進め方、ポイント 6)開発段階に応じた変更管理の考え方 講師の言葉 原薬の製法開発の最終目標は商用生産にあり、スケールアップ検討は絶対に避けられない部分である。更にスケールアップ検討のまとめの位置付けであるプロセスバリデーションは絶対に失敗できない部分である。 開発初期では合成プロセス、出発原料の変更のような大幅な変更も可能であるが、開発が進むにつれ変更は困難となり、逆に設定したパラメータの不足、不都合部分が明らかになってくる。特に製品の品質を決定する精製工程は最も注意が必要な部分である。実験計画法は「実験の計画」と実験により得られたデータの「解析方法」の二つから構成され、実験の計画とは「目的に応じてどのような実験を行えばよいか?」あるいは「どうすればデータを効率的に集めることができるか?」と言える。 本セミナーでは実際に経験した事例(失敗例)を参考に各開発段階で行う実験の注意点、実際のスケールアップ製造で遭遇した問題点をどのように対処、解決したかを説明し、更にそこから得られた知見をもとに効率的な実験計画の立て方、必要なデータの集め方を説明する。最後に事例を参考にプロセスバリデーションの進め方を説明する。
プログラム
1.医薬品(原薬)の開発とスケールアップ(基本的な考え方) 2.実験室スケールとスケールアップ製造の相違点 ・小スケールとスケールアップのパラメータの比較と考え方、設定法 3.合成法、合成ルートの設定、考え方、注意点(ICH M7、化審法、その他) 4.スケールアップ実験するためのチェックポイント、考え方と原料、 中間体の評価項目(安全性、安定性、結晶多形、溶媒和他)とその対応策 5.スケールアップでの問題点(実際の経験から)と対応策 5.1 開発初期(実験室~20Lスケール)の事例 5.1.1 転位反応:1gから10gにスケールアップしたら転位反応が原因で目的物が得られなくなった。 (反応機構の理解) 5.1.2 アスコルビン酸硫酸エステル誘導体の製造:1gスケールでは目的物が合成できたが、 10gスケールでは合成不可の結果となった。(中間体の安定性) 5.1.3 カラム分離工程の回避:前臨床試験に進むことが決まり、カラム分離工程回避の必要性が出てきた。 (結晶性誘導体) 5.1.4 ピリジン・無水硫酸錯体(硫酸エステル化剤)の合成:吸湿性が原因で目的物が得られないと 判断したが、逆に吸湿性を利用することで大量生産可能な方法を見出した。(目的物の物性の理解) 5.1.5 ペントキシフィリン中間体の製法検討:文献を参考に実験を進めたが目的物は得られず、 実験結果に基づいて検討を進めたところ、簡単な製法にたどり着いた。(反応の理解) 5.1.6 抗生物質の側鎖の製造:新合成法を考案し、特許出願までしたが、 中間体に安全性の問題あることがわかり、検討中止。(安定性は変えられない) 5.1.7 五塩化リンによるクロル化プロセス:溶媒を変更したら反応が進まなくなった。(結晶多形の影響?) 5.1.8 アルキルホルムイミデート類の合成:青酸ガスを使用しなければならない。(反応の理解) 5.1.9 エステルの選択(アミノチアゾール誘導体):メチルエステル、エチルエステルの比較実験をして 相違点(物性)を確認、合理的な合成法に至った。 5.2 パイロット試作(100~500Lスケール)での事例 5.2.1 ジクロルアセトニトリルの製造:設備の性能を安易に考えて刺激性のミストが噴出した(反応の理解) 5.2.2 アミノチアジアゾール誘導体の製造:設備の性能を安易に考えて オーバー反応してしまった。(反応後の安定性確認) 5.2.3 塩酸ペンタゾシンの中間体の製造:スケールアップして中間体を大量合成したら分解してしまった。 (中間体の物性は変えられない) 5.2.4 アミノチアゾール酢酸誘導体の製造 5.2.5 臭素化プロセスのスケールアップ:パイロットにスケールアップしたところ、反応開始を確認できず、 トラブルに陥りそうになった。対処法を検討した結果、合理的かつ安全なプロセス開発に至った。 5.2.6 撹拌速度の影響:アセトン/炭酸カリウム系でのアルキル化反応。(不均一反応の考え方) 5.2.7 結晶多形の同等性:外部委託したら結晶形で同等性の問題が発生。(規格設定の重要性) 5.3 パイロットから商用生産(2000Lスケール以上)での事例 5.3.1 微量の添加剤の影響:2工程先の抽出・分液工程で問題(エマルジョン)発生。 (微量の添加剤の影響、原料のロット管理の問題) 5.3.2 PhaseIII試験後の製法変更:爆発性の中間体を経由するためスケールアップ製造できず PhaseIII試験が終わってしまった。(反応の仕組みの理解) 5.3.3 目標規格の原料が手に入らない:商用生産に入ろうとしたら原料が入手できなくなった。 (原料調査の重要性) 5.3.4 設備変更して反応の本来の姿がわかった:パイロットまでGL、 商用生産でSUSに切り替えたところ錆が発生。(原料中の強熱残分の影響) 5.3.5 アミノチアゾール酢酸製造のスケールアップ:パイロットまでは問題なかったが、 商用生産で乾燥機の選択を誤った。(安定型と準安定型) 5.3.6 キャンペーン生産:スポット生産では問題なかったエステル交換反応を、 キャンペーン生産に切り替えたところエステル交換反応が進まなくなった。(微量の種晶の影響) 5.3.7 溶媒回収できる条件でプロセスを設計:溶媒回収しないと採算が合わなくなった。(発想の転換) 5.3.8 残留溶媒の規格:商用生産に移行しようとしたら残留溶媒の問題発生。(溶媒和物) 5.3.9 出発原料の製法に伴う問題(製法に伴う異性体混入の可能性) 5.4 商用生産開始後の事例(数千Lスケール) 5.4.1 収量低下の逸脱:原料の溶解時間の影響(原料と溶媒の相互作用) 5.4.2 技術移転:季節の影響まで考えていなかった。(湿度の影響) 5.4.3 原料の純度をアップ:高純度の原料に切り替えた途端に逸脱(不純物除去の仕組み) 5.4.4 乾燥時間の管理:順調に商用生産がスタートしたが、 突然製品の乾燥時間が2倍(10時間→20時間)になった。(水和物の考え方) 5.5 最終精製工程のスケールアップと注意点 ●精製溶媒の選択の重要性 ・溶解、晶析プロセスで異性化 (syn → anti) ・歩留まりへの影響 (マレイン酸塩化のプロセス) ・乾燥工程への影響(水和物副生の影響) ・難溶性原薬、中間体の精製(テトラゾール誘導体) ・貧溶媒を加えて晶析(類縁物質管理) ・精製工程で水を使用する場合(精製水の管理) ・原薬の乾燥プロセスで新たな残留溶媒が副生! ●空気(酸素、水分)の影響 ・溶解、脱色濾過、晶析中に過酸化物が副生(ベンジル位に注意) ・固液分離~乾燥過程で結晶形が変化(アルツハイマー治療薬) ・微量に副生したの溶媒和物の影響(乾燥時間延長) ●環境の影響 ・遠心分離機の脱水袋(材質の問題) ・異物混入の瞬間 ・フィルターの材質(溶媒の濾過) ●包材(一次包材、二次包材)の影響 ・包材中の微量の添加物の影響 ・包材の品質(結束帯の例)現場確認したら ●粉砕機の管理 ・洗浄手順(SOP)の書き方 6.まとめ プロセスバリデーションの進め方~事例を参考に~ 7.その他、質疑応答
講師紹介 略歴 1979.3 岐阜薬科大学大学院中退 1979.4 和光純薬工業株式会社入社、東京研究所主席研究員を経て、 1991.10 大鵬薬品工業株式会社入社、工業化技術研究所所長、合成技術研究研所長を経て、 2007.7 三菱商事株式会社入社。先端化学品本部技術顧問(兼)常熟力菱精化工有限公司(中国、常熟市)研開部本部長を経て、 2008.7 株式会社エースジャパン入社、常務取締役山形工場長を経て、 2015.4 株式会社三和ケミファ入社。個人事業主登録し、数社のアドバイザーも兼務し現在に至る。 学会等 米国化学会会員 東京大学大学院 薬学系研究科薬学部研究員